自然の側を歩く

サティシュ・クマールはダートムーアとの繋がりを見出している。

翻訳:竹田 真理    

 自然界の野生の美しさと私を繋いでくれるダートムーアは愛おしい場所です。イギリスでは、自然のままの土地はほとんど消滅し、ダートムーアのほとんどが農地や居住地にされてきましたが、歩いたり、自然のインスピレーションを受ける谷や岩山(tor:トア)がまだたくさん存在します。

 私は、ノースデボンに住み、サウスデボンにあるシューマッハ・カレッジで教師をしています。おかげで、冬でも夏でも1年を通して原野を見て回る貴重な機会があり、広々とした田舎の岩山やごつごつとした景色の不思議さに浸ることができます。時々、ダートムーアの有名な霧につかまりますが、この地域に詳しいので不安はありません。

 私のお気に入りの散歩道はウィストマンズ・ウッドの森です。トゥー・ブリッジズから歩き始めるとすぐに、黄色いハリエニシダの茂みの中に入り、つやつやの茶色い草のリタフォード・トア(Littaford Tor)の中に入ります。ロンガフォード・トア(Longaford Tor)とハイヤー・ホワイト・トア(Higher White Tor)の間の穏やかな湿地を楽しみます。トアの頂上からの風景は美しく、古代の火山時代からある花崗岩の上でひとり瞑想します。悠久に想いを馳せます。

 ハイヤー・ホワイト・トアから降りてローワー・ホワイト・トア(Lower White Tor)に向かって歩きます。頭上の広大な空、私の周りでうねる丘は、魔法のように私を魅了します。やわらかな草に横たわり、優しい風が私の頬をなでます。頭上高くから太陽は私を見つめ、体を温めてくれます。太陽のことをよく考えています。それは、神様のように私がどこにいてもいつも私を見つめ、光を私に届け、私の命を維持してくれます。私の下にある草と頭上にある太陽に感謝の気持ちでいっぱいになるのです。

 ひと息ついた後、起き上がり、神秘的なウィストマンズ・ウッドの森に向かって歩きます。そこは、柔らかい緑の苔で覆われた数千もの大きな岩に囲まれた小さなオークの森。ここにある岩は、木々の命の救済者であり、そこには羊やポニーや牛はおらず人間が少しいるだけです。岩のおかげで誰も木に攻撃したり、切り倒したりする人もいません。私は守護の岩と呼んでいます。ゆっくりと注意深く森に進み、岩の間にはまって怪我をしないかと気を使います。ここは何度も足を運んでいますが、今でも用心しています。

 ダート川(river Dart)の水の流れに到着します。彼女は私を招き、抱きしめたいと思ってくれるので、服を脱ぎ水の中に入ります。その小川は浅く小石は滑りやすく、水は冷たいです。数分経つと爽やかな気分になります。ダート川の水源はそんなに遠くはなく、原野を数時間歩いたところにあるかと思います。そこへ行きたくなるのですが、生徒が私を待っているためシューマッハ・カレッジに行かなければなりません。その願いを諦め、澄んだ綺麗な小川を楽しみます。言葉は交わしませんが、流れるダート川と深い会話をします。流れる水の音楽を聴きます。

 1時間半ほど滞在し、岩の間を通り、森を抜けトゥーブリッジズに戻ります。ダート谷の上の小道は澄んでいて、まっすぐで緩やかで心地良いです。時々立ち止まり、自然の荘厳で雄大で穏やかな存在感を見渡します。楽園です。自然は私の宗教、自然は私の寺、自然は私の神様です。

 眺めがよく、でこぼこの地形を運転し、雨、風、時の流れによってなめらかになった岩であるコンベストーン・トア(Combestone Tor)に向かいます。まさに自然の彫刻です。下にはダートの深い渓谷、上にはコンベストーン・トア、そこはもう1つの楽園です。北からの白い霧ときりりとした空気の層が原野をさらに神秘的なものにします。 

 コンベストーン・トアの岩は死んだ岩ではありません。私に話しかけてきます。私は彼らと沈黙の会話をします。彼らの存在を感じます。活気に満ち溢れ、生きているのです。魂があり、精神があります。記憶と知能があります。科学者であるジェームズ・ラブロックは、地球という惑星は、生きた有機体であり、かつて信じられていた死んだ石、ではないと考えています。

 残念ながら、このような賢明な考え方は、工業、ビジネス、政治の世界にまではまだ及んでおらず、これらの世界は大自然をたかが未発展のものとして考え、最悪には怖いものと考えています。道路、家、ホテル、空港やショッピングモールは進化と発展の象徴として考えられています。

 人間中心の偏った見方の中で、私たちは進化の一番上にいるのは人間だと考えるようになりました。私たちこそ優れた種であるということ、残された自然は人間が使うためにあるということで、文明化した人間は人類の利益のために自然を支配してもよいということです。コンベストーン・トアという仲間と共に座りながらこの人間の傲慢な考え方が笑えてきます。春のブルーベル(ツリガネズイセン、学名 Hyacinthoides)と蜂は気品と壮大さを持ち合わせています。どうしたら自分が彼らより優っていると思えるのでしょうか?平等という考えを広げて、全ての生きものを含めるべきだと考えます。いつの日か人間の人権だけでなく、自然の権利も含まれることを願います。

 ベンフォード貯水池近くの狭い道を通り抜けます。澄んだ水、昔のままの森、新鮮な空気と暖かな太陽、私の目の前は美しく、後ろは美しく、頭上は美しく、下は美しく、私の周り全てが美しい。これが私の母なる地球に捧げる叙情詩です。

 ホルンの村を車で抜け、バックファーストでベネディクティン大修道院を通ります。車、道路、建物、公害のある文明に戻ります。けれども、大自然と美しいダートムーアはまだそこにあり、生き、魅了し続けています。

 

サティシュ・クマールは、『Pilgrimage for Peace:The Long Walk from India to Washington(平和への巡礼の旅:インドからワシントンへの長い歩み)』の著者。こちらから www.resurgence.org/shop 入手可。