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理想主義と現実主義を合わせる

サティシュ・クマールが50年来の環境運動について、ジョナサン・ポリットとともに考える。

翻訳:林田 幸子、校正 :沓名 輝政     

 

サティシュ・クマール(以降SK):1970年代には、経済や政治を変えるために、世界観、パラダイム、考え、哲学、科学、生活スタイルを変える必要があるといった考えがありました。しかし、21世紀には、科学技術による解決策に、より重きが置かれています。それが主流で、ある程度、環境保護主義は取り込まれていて、科学技術による解決策が、顕著になってきています。私たちの世界観や生活スタイルの変化、そして、より簡素で慎ましい暮らしは、後回しになっています。もちろん主流になっているのは、科学技術による解決策で、その理由は、経済的成長は新しい科学技術の助けで続いていくというもの。私たちは新しい科学技術を持つべきだと信じられています。その新しい科学技術は、汚染、二酸化炭素排出を減らし、気候変動を抑えられるというものです。

 COP26では、基本的な価値観の変化よりもむしろ、科学技術の解決策について話されていました。その一方で、50年前には人々は新しい文化、新しいエコロジカルな文明、 新しい生き方について考えていました。たとえ再生可能エネルギーの進歩した科学技術があるとしても、どのくらいのエネルギーを生み出せるでしょうか?ますます多くのエネルギーを求めて需要や必要性が増え続けていくなら、あらゆるところにソーラーパネルや風力タービンを設置することになります。ただそれでも十分なエネルギーにはならないでしょう。というのも、私たちは、足るを知ることがないからです。

 

ジョナサン・ポリット(以降 JP):誰も気候変動枠組条約を、本当に深く見識を持って冷静に考えるものとしては見ていないでしょう。その目的のために作られてはいないのです。COPは、解決策に基づいた議題、その多くは科学技術に基づくものであり、その議題について国際的な合意を得るのに必要なことをするためにあります。そのために作られたのです。私たちは、人類全体のために科学技術を使うことに今専念している人々をより理解する必要があると感じています。

 私は明言しておきますが、科学技術が世界の問題の全てを解決するという人々に出会った時はいつでも、彼らが妄想家か気が狂っているかのどちらかだと答えます。しかしまた、科学技術の飛躍的進歩を否定して手放す人々に出会うと心配もします。

 

SK: この200年間私たちは科学技術とともにあります。私たちは、科学技術が、飢餓、不平等、重労働などの問題を解決し、人々は、詩、音楽、芸術、余暇のための自由な時間を得るとされていました。しかしその約束は果たされていません。

 

JP: 科学技術について懐疑的だということに、不快感はないのです。しかし私の意見ですが、私たちは、再生可能エネルギーの科学技術について疑わずに、その科学技術でお金を生み出している人々について、もっと疑い深くなった方がいいと思うのです。

 

SK: あなたの意見は素晴らしいです、でもどうしたらお金を生み出すことと有意義な活動とを区別できるのでしょうか?この現在においてさえ、人々はお金を生み出すために、パンデミックを利用しています。再生可能エネルギーでさえ、お金を生み出すために、いくつかの会社によって、集約され支配されています。炭素さえ、お金を生み出すために、商品化されています。お金を生み出すことが、ビジネスにおいては、もっとも有力な動機です。

JP: 科学技術が無限の利益と結びつくこのシステムは、80億人の人々にとって、持続可能で思いやりのある世界について考えることを不可能にしています。これは事実です。しかし、必ずしも、このシステムだけで、生きねばならないというわけではないのです。現時点で、私たちがすべきことをする時間は非常に短く、完全に支配的な経済のパラダイムがあるのです。もし必要なことをするための希望が、最初に資本主義の形態を一掃するということによるのなら、全く無謀です。私たちと世界観を共有する人々が今日持つ影響力の点から考えてみてください。私たちは依然として、今日の政治の世界全体のとても小さな一部なのです。その点で、どんな幻想にも苦しむへきではありません。私たちは、現実的に、私たちの限界を知り、何が達成可能かを知る必要があります。だから、人々が非常に説得力のある議論を理路整然と展開して、資本主義がすべての問題の根源であり、80億人のためにこの素晴らしい、持続可能で、思いやりのある、公正で、地球に優しい世界を作るには、まず資本主義を排除すべきというのなら、それはまさに絵に描いた餅なのです。

 

SK: あなたはより現実的で、私は理想主義で、ややスピリチュアルですね!実際、あなたもとてもスピリチュアルで、実践的な理想論者だということを私はわかっていますよ。私たちは、外面的な変化、科学技術の変化、経済の変化、エネルギーシステムの変化について、話をしています。しかし、内面の変化についてはどうでしょうか?意識の変化、心の変化については、どうでしょうか?

 

JP: グリーンムーブメントには、自分に甘く内向きなスピリチュアリティへのアプローチもありますね。私は、サティシュよりずっと世の中に対して厳しいですからね。明らかに。純粋に内向きなアプローチというのはかなり問題があると思います。

 

SK: 私もそう思います。スピリチュアリティとは、世界から切り離すことではありません。スピリチュアリティとは、世界と関わり合うことなのです。スピリチュアリティとは、目を閉じて「ただ瞑想をして世界について思い悩まないぞ」と言うことではありません。

 

JP: 少し前、シェイクスピアの言葉について話していて、私たちはどちらも「お気に召すまま」の記憶に残るセリフを褒めたたえていましたよね。その場面は、公爵が豪華な宮廷生活をすべて捨ててアーデンの森にいる自身を見つめ、この新しい生活に「いかに木々に言葉を、流れる小川に書物を、石に説教を見出すか」と語るものでした。そしてそのセリフの最後の部分では「いかに万物の中に善を見出すか」と。シェイクスピアが、ほんの2行で、いともたやすく万物は神の現れだという素晴らしい汎神論を明快に述べた事実、素敵でしょう!このように自然界は私たちに語りかけてくるのです。そして、これこそ私が抱いているスピリチュアリティなのです。

 

SK: あなたがおっしゃったことは素晴らしいです!あなたは、現実主義と理想主義は、お互いに補い合っていると示してくれたのだと、私は思っています。では、この辺りで終わることにしましょう。

 

 

サティシュ・クマールは、リサージェンス&エコロジスト誌の名誉編集長。

ジョナサン・ポリットは、環境保護活動家、作家、FoE(エフ・オー・イー)の元理事。