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イタリアから感化

トスカーナ州の環境再生型(リジェネラティブ)農場をサティシュ・クマールが訪れる。

翻訳:竹田 真理、校正 :沓名 輝政

 

「環境的に持続可能な農場を、経済的にも持続可能にするにはどうしたらいいか」とお尋ねなら、私の答えは「ファトリア・ラ・ヴィアラ(ファトリア農場)をまねしたらいい」です。そして、もし「気候危機に取り組みながら、同時に十分な量の良い食べ物をどうやって育てたらいいか」と聞かれたら「ラ・ヴィアラ方式を!」と答えます。

 イタリアのこの花開いている農場を訪れ楽しく過ごしました。私は感激し、刺激を受けました。

 私の親切なガイド、アネット・ミュラーが農園を一緒に歩きブドウ畑、オリーブの森、オーガニックでバイオダイナミック農法で育てるガーデン(ハーブや果物、花、野菜)を案内してくれました。

 この2,000ヘクタールの土地は、中世の聖フランチェスコ聖堂で有名なアレッツォの町の近くにある、トスカーナの肥沃な野原に位置しています。コンスタンティヌス帝が夢みた聖十字架伝説を描いたピエロ・デラ・フランチェスカの傑作フレスコ画を見るために数年前にアレッツォを訪れました。しかし、その時はラ・ヴィアラの傑作のことは知りませんでした。あの有名なフレスコ画がピエロ・デラ・フランチェスカによって描かれたように伝説の「ラ・ヴィアラ」農場はもう一人のピエロであるピエロ・ロ・フランコとその妻のジュリアナによって作られたのです。

 アネットは、私に農場の歴史を簡単に説明してくれました。

 40年以上前、織物商人だったピエロとジュリアナ・ロ・フランコ夫妻は、トスカーナの農村が荒廃し、小規模農家が生計を立てられなくなるのを見て心を痛めました。ピエロとジュリアナは、農村を守りたいという思いに駆られ、農業の経験もないのに、荒れ果てた農家と土地を購入しました。

 ピエロとジュリアナには3人の息子がいました。ジャンニ、アントニオ、バンディーノです。丘や野原、森で育った彼らの心には、土地への愛が芽生えていました。3人の兄弟は、両親から土地の遺産を受け継いだだけでなく、土や動物、木々を大切にする情熱も一緒に受け継ぎました。良い食べ物を作ることは、彼らにとって職業であり、天職でもあったのです。一家は長年にわたり、多くの荒れ果て、壊れた農家、農家の空き家、放置された土地、危機に瀕した森林を手に入れました。そして、この地域の文化や農業の活性化に貢献したのです。

 3兄弟が協力し合い、家族経営の農場としてラ・ヴィアラを運営しています。彼らは有機農法とバイオダイナミック農法に全面的に取り組んでおり、生物多様性の理想に根ざした環境再生型農業の優れた例と言えます。

 ラ・ヴィアラでは、様々な種類のブドウを生産しており、そのブドウから受賞歴のあるワインが作られています。また、オリーブオイルやペコリーノチーズの品質も最高です。パスタやオーブン付き薪ストーブで焼くパンも自家製です。そして、トマトやアーティチョークなどの野菜や果物を使ったラ・ヴィアラのジャムもあります。

 ラ・ヴィアラの料理を体験したとき、私は職人の料理とはどのようなもので、どのような味なのかを知ることになったのです。オリーブ、ブドウ、ハーブ、野菜、果物、花など、すべて手摘みで収穫され、手作業で作られ、うまく盛り付けられているのです。ラ・ヴィアラでは、イタリアの美意識、実用性、耐久性(Beauty, Utility and Durability)、つまり私がBUD原理と呼んでいるものを大切にし、祝福しているのです。

 壊れて放置されていたコテージやファームハウスは、田園精神をそのままに、伝統的な方法で慎ましく、シンプルかつエレガントに修復されています。これらの家屋は、森や谷、丘の上にひっそりと建っているため、お客さんは癒しの環境の中で休暇を楽しむことができます。自然の癒しの静けさの中で、分離感を感じることなく、孤独を体験することができます。

 アネットは「ラ・ヴィアラ」の経済的な成功の鍵は、すべての農産物が仲介業者を通さず、直接お客さんに販売されていることにあると説明してくれました。レストランやショップ、スーパーマーケットなどを通じて販売することは一切ありません。すべての食材は付加価値をつけて、各家庭に直接供給されています。こうして、すべての収入は農場に還元され、その利益は農場に投資されます。食材の品質を維持し、お客さんに満足してもらえるように、さまざまな工夫をしています。このアプローチにより、ラ・ヴィアラの食品を購入するすべての人に、個人的な関係や帰属意識が育まれるのです。

 昼食は、3兄弟とその家族の夏の別荘である古い農家でとりました。ここは小高い丘の上にあり、野生の森と植林された木々が混在するという恩恵のある、うっとりするような場所です。家の前には大きな平地があり、その真ん中に荘厳な木が立っています。昼食はその木の下に配膳されました。

 アントニオ、奥さん、二人の娘さん、そしてバンディーノが私を受け入れてくれました。昼食は本当にごちそうでした。今まで経験したことのない、最高のイタリア家庭料理でした。食材はすべて農場で採れたもので、自給自足と地域経済の見事な証明です。

 「悩みや不安、問題やジレンマがあると、ここに来て解決策や安らぎを得ます」とアントニオ。「あなたのオーディオブック『エレガント・シンプリシティ』を聴いています。あなたの考えや理想を、私たちの農場で実践しようとしているのです」

 「実践的な理想主義に感動しました! これこそ気候危機に対処するために必要な農業です」と私は言いました。「大気中の炭素排出量と温室効果ガスの30~40%は、食品と農業に由来していますからね」

 アネットが「シエナ大学の研究者が長期にわたってラ・ヴィアラをモニタリングし、ラ・ヴィアラの土壌には高度な炭素貯留があるとの結論に達したんですよ」と付け加えてくれました。

 土壌学の専門家であるクレイグ・サムズ(Craig Sams)はこう言っています。「もし、すべての農家がラ・ヴィアラ方式に従えば、固定された炭素は、地球規模で増加する温室効果ガスを相殺するどころか、毎年、大幅に減少させられるでしょう」

 ラ・ヴィアラは、いろいろな意味でサクセスストーリーではあるものの、世界に広がる化石燃料に依存した巨大農場に囲まれた比較的小さな農場にすぎないように思われるかもしれません。それでも、ラ・ヴィアラは私に希望を与えてくれます。大河は人里離れた丘の上の小さな泉から始まります。同じように、トスカーナの丘陵地帯に再生農業の川が湧き出しているのです。それが力強い変革の流れになりますように。 

 

サティシュ・クマールは『Soil, Soul, Society』の著者。リサージェンスショップ(www.resurgence.org/shop)でお求めいただけます。(邦訳版は『人類はどこへいくのか ほんとうの転換のための三つのS〈土・魂・社会〉』ぷねうま舎)

「Fattoria La Vialla」の詳細は、www.lavialla.com をご覧ください。