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土からの学び

 サティシュ・クマールがユニークな大学のコースのニュースを紹介します。

 翻訳:浅野 綾子

 

シューマッハーカレッジでは、コミュニティの中で学ぶ環境の中で、エコロジカルで霊的な世界観をさぐる多数の能力別クラスを設けています。短期講座もあれば大学院課程もありますが、気候変動の危機という緊急課題をあつかう最適な講座のひとつは持続可能な園芸プログラム (Sustainable Horticulture Programme) です。

 アグリビジネス(肉と作物の工業生産)は、地球温暖化を生じさせる温室効果ガス排出量の正味 2530 パーセントを占めます。世界に供給する食料を生産するのに使用する水と電気の量は膨大で、実際にこのような農業によって大切な土壌がはかりしれないほど浸食され、減少しています。こうした農業が自然環境にもたらした結果は悲惨なもので、生産された食べ物の質は理想的とはいえず、深刻な健康問題の一因になっています。それでも、別のやり方はないかのように工場式農業がつづけられているのです。ありがたいことに、シューマッハーカレッジの持続可能な園芸プログラムでは、気候崩壊を助長することなく食料生産ができる、多くの実現性のある選択肢と解決の成功例の存在を証明しています。

 有機農業は広く知られており、その数ある実践方法は数十年にわたり多くの試練を乗り越えてきました。パーマカルチャー(自立する生態系の中で行われる恒久的な農業または園芸)の実践は普及して 40 年以上になります。また、フォレストガーデンとは人間の介入を最小限にとどめた食料栽培方法ですが、豊かに作物を実らせながら自然が再生できるようにします。シューマッハーカレッジ付近にあるマーティン・クローフォード (Martin Crawford) 氏のフォレストガーデンは、この方法の素晴らしい一例であり、プログラムに参加する学生には実際に訪れる機会があります。また一方で、アグロエコロジー [生態系に配慮した農業] という農業が、再生可能な農業という環境保護原則にもとづきながら、持続可能な方法で良い食べ物を育てたいという人たちの関心をあつめています。

 アグロエコロジーには、真の意味における農業の理想があります。古英語では、「culture(文化)」という言葉の意味は「耕す」または「世話をする」でした。ですから農業は土を世話し、土と調和して食べ物を育てるという意味だったのです。言い換えれば土を慈しむことにより育てるといえるでしょう。アグロエコロジーの実践に一番良い方法は、工業規模のモノカルチャーから脱出して、代わりに生物多様性の原則を取り入れることです。たくさんの木や穀物、花、果樹、野菜を一緒に育てることはアグロエコロジーに欠かせない原則です。多様性が土の地力を保ち、作物の回復力を培います。

 「human(人間)」と「humus」の語源が同じであることを思い出すのも賢明です。「humus」は「土」を意味します。人間はまさに土の生きものなのです。でも、工業式農業が持つ機械化という性質により人間は土から切り離されてきました。アグロエコロジーを通して人は土や自分のルーツと再びつながることができます。

 ですが、一方でアグロエコロジーの原則にもとづいた農業が、増え続ける世界の人口をやしなうだけの十分な食料を生産できるのか疑う人たちもいます。この疑いは、人が関与しなくても食べ物は育てられるという誤った考えから出ています。私たちは皆食べることが必要ですが、自分の手で育てたいとは思っていないようです。期待するのは、機械やコンピューター、さらにはロボットが食べ物を安く作って世界中に供給してくれること。ですが、この期待が二酸化炭素排出の主要な発生源となってきたのであり、気候による大災害を招いているのです。この期待は今後も二酸化炭素排出源であり続け、大災害を招いていくことでしょう。
 農業に従事するとして、1 日に 100 ポンド稼げたら本当にラッキーです。でも、銀行員として机の後ろで数字をいじくっていれば、1 日に 1000 ポンドを簡単に稼げます。農業の補助金があったとしても、農家はほとんど生計を立てられません。これを見れば、今の社会には食べ物を育てる人たちに対する敬意がないことがわかります。育てる人たちがいなければ生きていけないのに。

 それにしても、どうしていつも安い食べ物を求めるのでしょうか。牛乳 1 本よりも水 1 本にもっとお金を払おうとするのはどうしてなのでしょうか。コンピューターや車、スマートフォンやテレビ、ホテルや休日には何のためらいもなく高い金額を支払います。でも、食べ物は安くあってほしいといつも思うのです。危機が来た時、車やコンピューター、ホテルや休日、スマートフォンやテレビがなくても生きていけますが、食べ物がなければ生きてはいけないという重要な真実を忘れてしまっています。
 気候崩壊の混乱に対応し、再生可能で持続可能な食料生産システムをとりいれるには、農にたずさわることに対する尊厳をとりもどす必要があります。土を耕して食べものを育てることは気高い聖職であり、敬意がはらわれるべき職業です。食べものは単に商品ではありません。生命の源であり、地球からの聖なる贈り物なのです。さらには、菜園家や農家として土の上で汗を流すのは、心身の健康や霊性を満たすにも良いことです。
 食べ物を育てる人たちに対する敬意がないなら、食べる権利はありません。食べ物を食べる人はみな、食べ物を育てることにいくらかでも時間をかけなければなりません。王子だろうと、大統領だろうと、首相だろうと、大学教授だろうと、医者であろうと、弁護士であろうと  —   だれでも大地に触れ、土を耕し、食べ物を育てる時間が必要です。食べる者は自らも食料生産に加わらなければなりません。食べ物を育てる者が食べ物に困ることがあってはなりません。飢えた農家に食べ過ぎの銀行員、これは病んだ社会の印です。

 皆食べものを食べなければなりませんが、どうやって育てるのか知りません。ですから若い世代は食べ物を育てる技術を学ぶ必要があります。世界中のすべての学校・専門学校・大学には、付属の菜園と農場が必要だというのが私の持論です。どのような科目を学んでいるかにかかわらず、学生全員が、教授や教師と一緒に農にたずさわり、食べものを育てる技術を学ぶ必要がある。それを通して喜びを得る必要があると信じています。シューマッハーカレッジでは、学生とスタッフ全員がガーデニングと料理に参加します。新鮮で身体に良い食べ物は、良い教育の必要条件だと私たちは考えています。質の悪い食べものを提供しながら良い教育はできないのです。
 シューマッハーカレッジの持続可能な園芸プログラムは、再生可能で持続可能な農業とガーデニングの技術で、若い人たちを養成するのが目的です。プログラムの受講生は 4 月のはじめにカレッジに来て、9 月の終わりまで滞在します。6 か月間の実習期間に学ぶのは、食べものを育てる土地を大切にすることや、アグロエコロジー・パーマカルチャー・有機農業の技術。受講生は目を見張るような情熱で 2.8 ヘクタールの菜園を耕作し、作業を心から楽しみます。そうやって菜園を耕作しながら、カレッジ全体にむけて身体に良い食べものを育てます。昨年の計算では、14 人の受講生の頑張りで 2 万ポンド相当の果物と野菜がカレッジにもたらされました。資金不足の学校や大学の経営にいかに貢献できるか想像できませんか。

 気候の大混乱という緊迫した問題に対処したいのなら、農業を気候にやさしいものにしなければなりません。農にたずさわることに対する尊厳をとりもどす必要があります。菜園は最高の芸術作品であり、身体の健康と同じように心の健康の源でもあります。これこそ、シューマッハーカレッジの持続可能な園芸プログラムが示そうとしていることに他なりません。気候変動の危機を悪化させることなく良い食べ物を育てる、現実に存在する例なのです。

 

www.schumachercollege.org.uk/horticulture-programmes

サティシュ・クマールはシューマッハーカレッジの創立者。新刊の「Elegant Simplicity: The Art of Living Well」はリサージェンスのオンラインショップで購入可能。詳細は www.provisiontransylvania.com へ。