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ウクライナの平和

スイス方式の解決策がサティシュ・クマールを感化。

翻訳校正 :沓名 輝政     

 

最近、若い人たちと一緒にスイスのクリスチャン・リトリートに参加したときのことです。レマン湖と雄大なアルプスを望む部屋にいたのですが、皆、ウクライナの戦争のことを気にしていました。中でもアンヌ=マリーというスイス人女性は、ウクライナの苦しみを目の当たりにして、とても悲しそうな表情を浮かべていました。「何千という普通の市民が家を失い、難民となっているのです」と彼女は言いました。

 「アメリカ人は、ベトナム、イラク、アフガニスタンで戦争をしました。彼らは何を達成したのでしょうか?何もないでしょ!」と別の女性クリステルは言いました。「ロシア人とウクライナ人が互いに殺し合って解決する望みがあるの? バカげてるわ!結局、彼らは交渉によって解決策を見出さなければならない。これだけの殺戮と破壊の後で話し合いや交渉をするのなら、なぜ殺戮や苦しみの前にそれをしないのでしょうか?」

 「それが常識だよね。でも、常識はもう通用しないんだ!」という声が、部屋の奥から聞こえてきた。発言したのはマイケルという男性。「もちろん最終的には、交渉によって共通の基盤、共通の利益を見出さなければならない。ウクライナ人とロシア人は隣同士に暮らさなければならない。彼らは隣人なんです。地理は変られないから」

 アンヌ=マリーが答えました。「ウクライナは核武装したロシアに隣接する小国です。だから、ウクライナはロシアに侵略の口実を与えてはならない。だからウクライナはスイス方式を真似したらいい」 。興味がわいて私は彼女にどういう意味か尋ねてみました。彼女はこう言いました。「私たちの国スイスはNATOに加盟していません。欧州連合(EU)にも、ユーロ圏にも入っていない。自国通貨もある。しかし、私たちはヨーロッパとも、他の国々とも貿易ができる。ウクライナ人も同じようにできない理由があるかしら?スイスは第一次世界大戦でも第二次世界大戦でも中立でした。なぜウクライナはすべての国と中立で友好的であり続けることができないのでしょうか?スイスに敵はいない。すべての国が私たちの友達なんです。それが『スイス方式』です」

 「しかし、ウクライナの中央政府と、東部や南部のロシア語を話す人々との間には、長年の争いがあったのでは?」と私は尋ねました。「ウクライナ語圏とロシア語圏の内戦は続いているでしょ?どうやって和解させるのですか?」

 アンヌ=マリーはこう応えてくれました。「ここでもスイス方式を見習う必要があるわ。スイスには、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の4つの国語があります。これらはすべてスイスの公用語。ウクライナはウクライナ語とロシア語を同じように重要な公用語にすることができます。言語の多様性は賞賛されるべきです。複数の言語があることで、文化的な豊かさがもたらされるの。スイスでは、行政機能の大部分が地方に分散されています。スイスには22の自治州があり、各州は大きな自治権を持っている。国の問題の多くは、住民投票によって解決されます。首相や大統領もそれほど重要ではありません。スイスの大統領や首相が誰だか知っていますか?」

 「いや、知らない」と私は答えました。

 「そう、知らなくていいんです」と、アンヌ=マリー。「これがスイス方式なんです。スイスの憲法は中央政府に大きな権限を与えていない。だから国内も平和で、隣国とも平和に暮らしている。なぜウクライナもそうできないかしら?戦争は解決策にならないわ」

 「しかし、ウクライナ人は、これは『プーチンの戦争』だと言っている。」と私は言いました。「アメリカやヨーロッパの政府も、西側メディアの多くも、これはプーチンの戦争だと信じている。あなたなら彼らに何と言いますか?」

 「タンゴには二人必要よ!」とアンヌ=マリーは答えました。「ロシア人はウクライナ人を非難し、ウクライナ人はロシア人を非難する。平和を望むなら、非難合戦を乗り越えなければならない。両者が歩み寄らなければならないんです。妥協(compromise)という言葉は誤解されています。実はポジティブな概念なのです。一緒に(com)約束する(promise)』という意味です。争っている2つの側が一緒になり、中間地点に立ち、共通の利益を見出し、一緒に合意することで、真の妥協となるのです」

 アンヌ=マリーはそこで深呼吸をしました。しばらく間を置いてから、彼女は言いました。「ウクライナの子どもたちが両親と結ばれるのを見たい。何百万人もの難民が故郷に帰る姿を見たい。老人と病人がちゃんと面倒を見てもらう姿を見たい。戦争は無駄。誰も勝てない。誰もが負ける。何の意味があるの?」

 多言語・多文化で平和な国をつくったスイスの功績についてのアンヌ=マリーの話に感動しました。これはウクライナだけでなく、全世界の平和への道なのではないかと思いました。

 みんなでレマン湖と素晴らしいアルプスの山々を眺めました。湖も山も争わず平和。そして、それらもまた、言葉を使わずに平和を訴えていました。

サティシュ・クマールは『Pilgrimage for Peace』の著者。こちらで入手可。www.resurgence.org/shop