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分離は幻想

サティシュ・クマールは西洋科学と東洋哲学を組み合わせた本を楽しんでいる。

翻訳:馬場 汐梨     

 

ウェルビーイングの時代の夜明け

アーヴィン・ラズロ、フレデリック・ツァオ著

Dawn of an Era of Well-being

Ervin László and Frederick Tsao

SelectBooks, 2021 

ISBN: 9781590795156

 

この本の大部分は上に挙げた2人の著者によって書かれていますが、他にもディーパック・チョプラやヘイゼル・ヘンダーソン、ジーン・ヒューストン、ブルース・リプトンを含む多くの傑出した作家の寄稿があります。つまりこの本は、現代の最も賢明な思想家や教育者たちの随筆の美しいブーケなのです。

 あまりにも長い間、西洋の産業文明は社会的、精神的、芸術的、そして生態学的な価値を犠牲にして、経済成長という一つの目標に身を捧げてきました。著者たちは、私たちが早急に意識を変える必要があると意見を述べています。経済成長を重視する代わりに、個人的な、社会的な成長と、そして惑星のウェルビーイングを重視すべきです。

 工業文明にとって、人類と自然は経済成長という目標のためのたかがひとつの手段にすぎません。会社や企業には人事部があります。人間は生産、利益と経済のための資源でしかないと考えられています。この世界観では、その他の自然界についても同じことが言えます。ビジネスリーダーたちは天然資源について話します。自然は単に経済のための資源として扱われます。著者たちはパラダイムの根本的な転換を望んでいます。はっきりと言えることは、人類のウェルビーイングと自然を完全なまま保つことを人類の努力のゴールとし、そして経済をそのための手段として認めるために、私たちは新しい世界観を得る必要があるということです。

 アーヴィン・ラズロは哲学者かつシステム科学者であり、フレデリック・ツァオはウェルビーイングと中国哲学に特別な興味を持っているビジネスマンです。この2人の傑出した著者のコラボレーションを通して、西洋科学と東洋の精神性の統合と、これらがお互いに補完し合っているのを目の当たりにできます。彼らは、この新しいパラダイムを現実にするには、私たちが新しい意識を養う必要があると考えています。

 この新しい意識があると、物質と生命、スピリット、そして人々とその他の自然界の間に、量子レベルで完全な統一性があると分かるようになるでしょう。このように深く見ることで、私たちは分裂や分離から解き放たれるのです。この生命の統一性の理解と経験は、私たちのウェルビーイングのあらゆる面の前提条件です。私たちの世界観は歴史的に、分裂や分離の上に作られたものなので、私たちは不安に感じます。分離は幻想なのだと認識する時が来ました。分離が終わったところから、ウェルビーイングが始まるのです。

 幸運なことに、人類には新しい運命を形作る力や潜在能力、可能性があります。この本に書かれている挑戦は単に未来を予想することではなく、新しい未来を創ることなのです。その未来と言うのは、よそ者も敵もいない、すべての生物が、人類も人類以外も、同じ地球共同体のメンバーとして存在し、そしてこの素晴らしくまとまっていて繊細な生命の網に対する無条件の愛が、新しい意識の不可欠な部分であるような未来です。

 この本は全体的なウェルビーイングへの素晴らしいガイドです。それは私たちが物理学と形而上学の間に、自分自身と他人の間に、物質とスピリットの間に、そして人類とその他の自然界の間に橋をかけることによって、私たちは自分たちを、そして地球を癒せると示唆しています。

 人類の大部分は気候危機、失われる生物多様性、大気や水資源、土壌の汚染、社会不正、富の不平等、そしてその他現代の多くの破壊的な問題によって、恐怖や不安、不確実性に苦しんでいます。科学的、技術的な進歩が生活水準を引き上げ、商品の生産量と消費量が前例のないほどなのにも関わらず、人々は不安に感じています。明らかにすべてがうまくいっていないのです。これはどうしてなのでしょう?この本はこの重要な疑問に答える、勇気ある試みです。

 

サティシュ・クマールは『エレガント・シンプリシティ :「簡素」に美しく生きる』(NHK出版)の著者。原著『Elegant Simplicity』には印刷版とオーディオ版がある。